点をつなぐ 加藤千恵 あらすじ 感想
「小さい頃は、渡された紙に描かれた点に従って、ただそのまま線を引くだけだった。でも今は、好きなところに点を打ち、好きなようにつなげて行ける。その分、責任だって大きいし、大変なこともたくさんあるけれど、でも、なんて尊くてすごいことなんだろう」
女性の社会進出が叫ばれ、男女雇用機会均等法が施行されて久しく、かの物語の主人公・滝口みのりという28歳の等身大の女性の言葉のように、日々を懸命に生き抜く多くの女性たちに浸透してくれたら、どれだけ世の中は変化することになるんだろうか?
というのは、かなり大袈裟???
かの物語とは、2015(平成27)年1月15日木曜日に発売の『点をつなぐ』(加藤千恵/角川春樹事務所)。
発売とともに購入早々、勢いで読み終えながらも、ついつい繰り返し読んでしまった。
滝口みのりは、コンビニチェーンでスイーツの商品開発に携わっているものの、自身で選ばなかった方の味の同種のスイーツを、ライバル店が発売し、大ヒットとなってしまったことで、精神的に悶々としてしまって...。
仕事が忙しすぎて、恋人と別れることになってしまって、悶々としつつも仕事に邁進する日々の繰り返しは、まさに切ないもので...。
どうにか慌ただしい年の瀬を乗り切り帰省しても、父母や地元の友人との会話には、東京との距離感が大きくなってしまって...。
というのも、盛り上がる話題といえば、結婚のことやマイホームそして育児の悩みなどがほとんど。
みのりにとしては、共通の話題を探そうとすればするほど、自分だけが部外者のように思えてくるばかり。
学生の頃は、同じ教室で同じ話題で同じように笑ってきたのに、どうしてこれだけ違ってしまったのか、といった悶々とした気持ちにさいなまれてしまって...。
さすが、過去の短篇集で多くの人が経験している「虚しさ」「淋しさ」などを中心に描いてきただけあって、読み応えは充分だった。
たしかにやるせなくて、切ないや。
加藤千恵のこれまでの作風といえば、過去の短篇集では幸せには終わらないことの多い展開が大部分。
それゆえに、この度の発売の知らせを耳にしたときには、失礼ながら長篇としては通用しないのかなあ、といった思いの強かっただけに、この度の初めての長篇では、見事に裏切られて爽快だった。
せめて希望を実感させてくれる終わり方となってくれたのが、嬉しかったのかなあ。
みのりの心をスケッチのように描きつつ、しかも長篇として見事な作品に仕上げているのが、素晴らしかった。
特に、物語の鍵となる、幼少の頃の「点つなぎ」という遊び...。
番号がふられた点を1・2・3と正しい順番にペンでつないでいくと、紙の中に"ある形"が浮かび上がるというもの。
幼少の頃はただのお遊びでも、表面的にも年齢を重ねる反面、年齢なりの自覚の持てずに焦る気持ちの強まってしまうものなんだろうなあ。
さまざまなものを選び選ばないで生きてきた日々とあって、人生の選択をするかのような気持ちに駆り立てられてしまう衝動、決して解からないわけではない。
まさに、人生に悩んだり、迷ったりしている時にこそ、希望を与えてくれる最高の長篇だった。
今までに選んできた進路や恋愛、仕事は正解なのか、といった悩み惑う女性の心情が巧妙に描かれていて、読みやすかったことが、大きかったんだろうなあ。
将来への願いは二つ。
長期化する経済不安もある以上、昔ながらの「男は外、女は内」では成り立たない時代となっただけに、互いに良き方向へと補い合う方法を見つけ出せること。
冒頭のみのりの言葉が、より良い世の中への原動力として浸透すること。
そうあってほしいなあ。
2015-02-01 |
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