西川美和 永い言い訳 感想
さすがに考えさせられる。
これは、自分自身への戒めとしての貴重な一冊なんだろうか。
この時点においても、稀有な女性映画監督兼脚本家である西川美和は、1974(昭和49)年7月8日生まれ。
やはり、広島県広島市安佐南区の浄土真宗(安芸門徒)の根強い地域に生まれ育ったこと、中学・高校はカトリックのノートルダム清心中学校・高等学校に通ったこと、早稲田大学第一文学部美術史学専修し、「地獄絵の東西比較」と題した卒業論文が、運命を大きく左右したのかもしれないや。
時は流れて、2006(平成18)年上旬より公開の映画『ゆれる』、2009(平成21)年6月下旬より公開の映画『ディア・ドクター』、2012(平成24)年9月上旬より公開の映画『夢売るふたり』で、濃密な人間関係をそれぞれ描くことになって...。
そして、最新小説『永い言い訳』(文藝春秋)が、2月25日水曜日に発売されて...。
発売日当日と同時に購入したものの、内容が内容だけに悶々としてしまって...。
主人公は、人気作家・津村啓。本名・衣笠幸夫。
長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失ったことから、同じく事故で母親を失った一家と出会い、これまで悲しさを"演じる"ことしかできなかった分だけ、初めて夏子と向き合い始める物語の展開が...。
悲しいかな、人気作家として芽が出るまでの10年間は美容師の妻に食べさせてもらっていた劣等感ゆえなのか、妻への感謝の気持ちはねじ曲がり、二人の間にはすき間風が...。
しかも、代償は大きいもので、慌てることはあっても、悲しみは沸かず葬儀に際しても涙が出ないまま。
幸夫は情けない気持ちになるばかりで、心の整理のつけられないままに...。
ただ、幸か不幸か、ある事情から始まった亡くなった妻の親友の家族との付き合いが心の空白を埋めていく。
同じく事故に遭遇した妻亡き後のトラック運転手と2人の子どもの騒がしい生活との関わり合いの過程で、幸夫に欠けていた他者への思いやりを教えられる流れには、ありがたくて安堵させられるものが...。
西川美和曰く、この作品を描くにあたって、愚かな人を徹底的に書くのは自分の課題として、自分の持っている愚かしさをあますところなく主人公にすり替えて描いてゆく手法を通したとのこと。
事をなすにあたって思い通りに運ばないと、お恥ずかしながら他人に原因を求めてしまいがちなってしまうのが、人間の悲しい性。
現実に、この状態が半永久的に続いてしまったら、本当に堪らない。
まさに、ひと呼吸おいて、自身への落ち度はなかったのかを振り返るのに、ふさわしい良書として、肝に銘じておきたいもの。
2015-04-07 |
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