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カズオ・イシグロ 忘れられた巨人 感想


カズオ・イシグロ 忘れられた巨人 感想

カズオ・イシグロか...。

まさに不思議な歩みといってもいい。


あえて振り返ってみたくなった。



漢字表記は石黒一雄。


1954(昭和29)年11月8日、長崎県長崎市生まれ。

1960(昭和35)年、5歳の時に海洋学者の父親が北海で油田調査をすることになり、一家でサリー州・ギルドフォードに移住、現地の小学校・グラマースクールに通学。 卒業後にギャップ・イヤーを取り、北米を旅行したりデモテープを制作しレコード会社に送ったりしていたとのこと。

1978(昭和53)年にケント大学英文学科、1980(55)年にはイースト・アングリア大学大学院創作学科を卒業する。当初はミュージシャンを目指すも、文学者に進路を変更。

1982(昭和57)年にイギリス帰化。 後年の1986(昭和61)年に、イギリス人ローナ・アン・マクドゥーガルと結婚。


作家活動の始まりは、帰化した1982(昭和57)年から。

英国に在住する長崎女性の回想を描いた処女作『女たちの遠い夏』(日本語版は後年『遠い山なみの光』と改題、原題:A Pale View of Hills)で、王立文学協会賞を受賞、9か国語に翻訳されることに。

1986(昭和61)年、戦前の思想を持ち続けた日本人を描いた第2作『浮世の画家』(原題:An Artist of the Floating World)で、ウィットブレッド賞を受賞。


そして、運命の1989(平成元)年、英国貴族邸の執事を描いた第3作『日の名残り』でブッカー賞を受賞。 後年の1993(平成5)年に英米合作の下、ジェームズ・アイヴォリー監督・アンソニー・ホプキンス主演で映画化されるまでに。


さらに2005(平成17)年、『わたしを離さないで』を出版。 同年のブッカー賞の最終候補に選定されるまでに。



あれから10年後...。


いよいよ待ちに待った最新刊である『忘れられた巨人』(翻訳:土屋政雄/早川書房)が、5月1日金曜日に発売されて...。

あのアーサー王伝説を舞台にしたファンタジーとあって、醍醐味の実感しきれなかったからか、つい急ぎでの繰り返し読むことに。


その物語のあらましは、遠い地で暮らす息子に会うために長年暮らした村を後にした、アクセルとベアトリスの老夫婦による旅物語が中心。

雨降る荒野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅する二人の直面するは、若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士・ガウェインといった、さまざまな人々との出逢いを通しての、第三者的に実感する戦いと復讐のこだまの繰り返し。

特に、謎の霧が、二人にとっての失われた記憶や愛に密接していることについては、否応なく考えさせられてしまった。

記憶を戻すということは悪い記憶も受け入れなければならない、という運命を暗示しているかのようでいて...。


いずれにせよ、ファンタジーのおかげで、後味の悪さの残らなかったのは、何よりだった。

ただ、ファンタジーゆえに、人々の記憶が常に曖昧であるという不穏な空気をまといつつも、アーサー王の名や鬼や竜や妖精が出てくるファンタジー的設定には、さすがに戸惑ってしまった。

それでも、"過去の罪""人種、民族としての罪""赦し"ということを描く舞台として上手く機能しているのが、いくらかありがたかった。

「後世の人は~」「現代人が~たとすれば、」など、語り手による現代人の目線の時々挿入は、「これは純粋なファンタジーではない」という目配せなんだろうなあ。


全体を通しては、老夫婦の愛に温かくなり、いつでも寄り添う姿に、美しく憧れしまうことが、最大の収穫。

そして、著者の十八番である、"あてにならない記憶"と"やるせなさ"の健在、代わりのない深さであるのも、魅力の一つかなあ。

加えて、相変わらずの物腰の丁寧な文体。 大げさなレトリックのほとんどないまま読者を飽きさせない展開と伏線の回収。 最後に明かされる真実とちょっとした驚き。



「同じ状況になった時、自分はそれを赦せるだろうか?」

この問いかけには、これからも秘かにかつ強く応える必要のあることを、求められるんだろうなあ。

2015-05-04 | 共通テーマ:日記・雑感 | nice!(0) | コメント(1) | トラックバック(1) | 編集

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